暗号資産におけるトラベルルールの重要性とは 変更点やメリットを解説
2023年6月からトラベルルールが改訂され、暗号資産取引所で送金をする際に通知が行われます。
暗号資産の取引を行う人の中には、トラベルルールという言葉の意味をよく知らないという人も多いと思います。
トラベルルールはマネーロンダリングなどの不正からユーザーを守るために作られたルールであり、しっかり理解しておかないと送金の際にトラブルに巻き込まれる可能性もあります。
今回は暗号資産のトラベルルールの重要性や変更点、メリットデメリットについて紹介します。
暗号資産におけるトラベルルールとは
トラベルルールとは、金融活動作業部会(FATF)が定めた顧客の情報を共有するためのルールです。
一定の金額以上の資金を送金する場合には、送信側と受信側の暗号資産を管理するプロバイダーが顧客の情報を共有しなければいけません。
国内では、2022年4月からトラベルルールの実施がされており、2023年6月からはルールをさらに強化することが決められています。
トラベルルールで求められる顧客情報
暗号資産の取引を行う際に、トラベルルールの規制では以下のような情報を求められます。
・本人の氏名/法人名
・受取人の氏名/法人名
・送付の目的
・送付先の国や地域
・送付先の取引所の名称
・送付の目的
国内の暗号資産取引所の場合には、送金先のアドレスを登録することで受取人の情報を入力することができる仕組みになっています。
トラベルルールの目的
なぜ暗号資産の取引情報を取引所などに通知、提供する必要があるのでしょうか。
それはトラベルルールが、マネーロンダリングやテロ資金供与などに悪用されるリスクを防ぐために作られているからです。
2019年6月にFATFによってトラベルルールの改訂がされ、各国で導入や履行することが求められています。
暗号資産は、個人情報を明かすことなく世界中に送金ができるシステムが利点ではありますが、これを悪用する不正利用が増加しているため、暗号資産を追跡できるようにすることが目的となっています。
トラベルルールの重要性
国内外では、暗号資産によるマネーロンダリングなどの資金洗浄が増加傾向にあります。
海外では、暗号資産によるテロ攻撃の資金提供の割合が数年前では5%前後であったが、2022年には20%に達するほどに増えている可能性があると考えられています。
(coindeskより引用)
テロ資金の移動手段では、現金や送金が一般的ではありますが、暗号資産などの新しい決済方法と組み合わせる利用方法も増加しているのが現状です。
また国内でも、マネーロンダリングによる検挙数は増え続けています。
令和4年にはマネーロンダリングの検挙数が726件あり、10年前と比較して約3倍に膨れ上がっており、暗号資産の経済規模の拡大と類似している推移となっています。
このように日本国内でも、マネーロンダリングに対する規制は不十分といわれており、トラベルルールによって暗号資産の送信情報が共有されることは、とても重要な役割を担うことになります。
トラベルルールを導入するメリット
トラベルルールによって資金の移動が通知なしに行うことができなくなり、ユーザーの安全面の向上や不正に対する抑止力としての効果が期待されています。
取引の安全性が高まる
トラベルルールの導入によって取引の安全性が高まる可能性が高いです。
暗号資産の取引をする上で規制がない状態であると、知らないうちにマネーロンダリングやテロ資金供与に加担をしてしまうリスクも増加します。
リスクが高まると暗号資産の銘柄の価値も低下し、安定した取引が困難になることも考えられます。
トラベルルールの適用によって全ての不正を対策できることにはなりませんが、導入されることによって犯罪や不正の減少や投資家の不安感を払拭することができるでしょう。
マネーロンダリングなどの不正を対策できる
トラベルルールはマネーロンダリングなどの不正利用を減らすことができます。
トラベルルールの適用前では、アドレスの提供など詳細な情報までは提供することが義務付けられていませんでした。
そのためテロ資金への悪用やマネーロンダリングなどに利用されることも多くありました。
しかしトラベルルールの導入によって氏名や目的などの顧客情報を提供する義務が生まれ、不正利用するために資金を移動させることが困難になり、マネーロンダリングを抑制する効果があると期待されています。
トラベルルールのデメリット
一方でトラベルルールによって手間が増えることや送金がしにくくなるというデメリットも存在します。
利便性を損なう恐れ
トラベルルールが適用されることで取引の際に手間が増えることになります。
送金をする場合には、所定の情報などを入力しなければいけないため、これまでよりも多くの時間を要する可能性があります。
また必要な情報を送信した後も、即時に送金が完了するわけではありません。取引所間で情報の共有ややり取りをしているため審査が長引くこともあります。
送金が制限される可能性
2023年6月からトラベルルールが改訂されたため、送金が制限される可能性もあります。
6月1日から「犯罪による収益の移転防止に関する法律」の改正によって、国内取引所での暗号資産の出金が制限されます。
トラベルルールに準拠するソリューションは大きく2つの勢力に分かれており、異なる通知システムを導入している取引所間では、暗号資産を直接送金できなくなりました。
TRUST
TRUST(Travel Rule Universal Solution Technology)は主に米国の取引所が多く採用しています。
国内取引所では、CoincheckとbitFlyerの2社が採用しており、海外取引所では、Binanceやcoinbaseなどの多くが導入しています。
SYGNA
一方で台湾のCoolBitX社が開発したSYGNAは、日本国内やアジア地域を中心に導入されています。
日本ではビットバンクやDMMビットコイン、GMOコインなど多くの国内取引所が採用しています。
異なる取引所間で送金をするためには
国内取引所の中には、一部の国内取引所とは直接送金をすることができないと発表している取引所も存在します。
トラベルルールの改訂の中で、国内取引所間で送金をするためには以下のような方法があります。
ひとつは同じ通知システムを採用している取引所のみを利用することです。現状では、CoincheckとbitFlyerの2社と他の取引所で分かれているため、どちらかのみを利用することで制限なく暗号資産の送金を行うことができます。
他には、МеtаMaskのようなウォレットを介して送金を行うことやDEX(分散型取引所)などを利用することなどで回避することができます。
安全な暗号資産取引所を選ぶためには
トラベルルールの改訂によって暗号資産の送金、資産の移転が以前よりも難しくなっています。
そのような状況の中で、安全な取引所を選ぶためにはどうしたらいいのでしょうか。
安全な取引をするためには国内の取引所を選択しましょう。
海外の取引所の多くはSygna Allianceという通知システムを利用しており、国内で多くの取引所が採用しているTRUSTとは異なり、互換性も異なります。
異なる通知システムを採用している取引所間で取引をするためには、ウォレットなどを介する必要があります。
送金の手間や回数が増えるだけ紛失などのリスクも高まるので、どちらか一つのシステムに絞って利用することで安全性が増します。
まとめ
暗号資産におけるトラベルルールはマネーロンダリングなどの不正を減らすための重要な役割を持っています。
トラベルルールによって安全な取引が期待できる一方で、送金に手間がかかることや取引所間によっては直接送金ができない場合も発生していることに注意しなければいけません。
取引所を選ぶ際には、手数料だけではなく通知システムによってどの取引所と送金が可能であるかなどしっかり確認することが大切になります。